■■ 11月3日(土) ■■

 
■いが再発見 No42 香落渓は人間と自然が渾然一体となる名勝
名張市の南部、青蓮寺川の上流にある香落渓(かおちだに)は赤目四十八滝と並ぶ関西屈指のモミジの名所として知られる。オノで断ち割ったような柱状節理と呼ばれる断崖絶壁が8キロにわたって続く名勝で、モミジのじゅうたんが彩を添える秋の景観は豪華絢爛そのものといわれてきた。11月の紅葉シーズンを前に、ほかにも魅力があるのではないかと晩夏の一日、河鹿橋から落合バス停までの4キロを初めて歩いた。あわよくば、その奥、赤目四十八滝まで足を延ばせないかと期待しながら。
満々と水をたたえた青蓮寺湖を右手に見ながら車は県道81号線を走る。トンネルをくぐると間もなく河鹿橋に到着する。運転してくれた人に聞くと、ここは子どもを連れてよくきた、という。橋からのぞくと、川の底まで見える。水がきれいだ。河原に降りて弁当を食べたり、魚釣りをしたりした、とも教えてくれた。確かに、キャンプやハイキングをするにはいいところだ。
ここから落合までの4キロを歩くのである。案内板がある。「秋11月中旬〜下旬に全山錦の紅葉となる」と書いてある。左すぐ上は屏風岩。ロッククライミングをする人も多い、とか。しかし、この日は一人も見かけなかった。間もなく「観光簗鮎(やなあゆ)」の看板の小屋。しかし今は営業をしていない。その直下の川床は平たく続いている。滑澗(なめらたに)と呼ばれるところ。釣り人が2人、サオを出している。アユねらいだ。日盛り。ミンミンゼミの鳴き声だけが谷間にこだまする。釣りに熱中する人間と自然が混然一体となっている。絵になる風景だ。
1.5キロほど行くと、左手に鬼面岩、右に武者岩が見える。前方には左右に何十メートルにもわたり柱状節理の岩がそびえる。ガイドマップには「ここの紅葉はいちばんのお薦め」と書いてあるが、岩の周りは緑の木々で覆われ、モミジの錦はどうしても想像できない。それが残念だ。間もなく灰色のゴイサギが目の前を横切る。青空を何気なく見上げると鬼面岩と武者岩の間を飛行機が、銀翼をきらめかして通過した。この辺りは飛行ルートになっているのか。… 続きは9月8日号の伊和新聞に掲載しています。
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香落渓を身近に・山口繁一さん
香落渓を歩いていると屏風岩、鬼面岩、紅葉谷など特徴のある名称には必ず案内板が設置してある。その看板を立てる活動をしているのが「名張市の名勝香落渓を身近にする会」。その代表が山口繁一(しげいち)さん(88)だ。 名張・青蓮寺に生まれ、小さいころから香落渓に親しんできた山口さんは「名張の名勝は赤目だけではない。香落渓もある」との思いが強かった。植物に造詣が深く、市内で「まちかど博物館」や「花見つけ自然教室」を主宰、会員と共に香落渓の自然観察を行ってきたからだ。2010年には国土交通省・河川協会が募集した「地域に貢献したい人は手を上げて」という呼びかけに応募。その補助金で活動を始めたのが「―香落渓を身近にする会」だ。それ以来、150人の会員が設置した案内板は絵看板、説明看板など数知れず。山口さん自身「あまりに多すぎて覚えていない」というほどだ。「香落渓の景観のすばらしさは空き地に駐車して降りて見ないと分からない」と山口さん、思い余って「そのスペース確保の予算を付けてくれ」と鈴木三重県知事に手紙を書き、採用。同知事と直接、面談し、場所5か所を提案する。さっそく県の担当課長らが現地を訪れ調査するが、いまだ実現していない。「結果的にはお金がないということでした」と山口さん。「あずまやを建て、景色を楽しむスペースはある。木を伐ったら広場はできるのですよ。とにかく県には地元に要望があることを認めてもらった」と。山口さんは今なお、意気軒高だ。。