▼ひと【NO.8】
つみ木作りの名手・松村禎夫さん

■「伊賀の手づくり展」に初参加
 名張市の民間シンクタンクを旗印に掲げる「伊賀の手づく作家展」は年ごとに参加者が増え、伊賀地域ではユニークなアート・ページェントとして話題を広げている。今年の第8回目作家展は6月3、4の両日、名張産業振興センター・アスピアホールで開催。出展参加者は新記録の53組となり、鑑賞者の人出もお祭ムードの盛況だった。
  参加者は名張、伊賀両市だけでなく、近年は圏外の滋賀県甲賀市、信楽、甲南、水口、奈良県宇陀市の榛原、室生などの出展者も参加している。日本でもいまは数人しかいないという、木工の手づくり玩具細工の名手、松村禎夫さん(60)も奈良県御杖村から初参加した。
  松村さんは、約40年間、奈良市で木工細工一筋の工房生活だったが、静かな農山農の自然にひかれて昨春、やっと御杖村の民家を買っての田舎暮らし。夫婦二人きりの暮らしがすっかり気に入り「御杖村民の仲間になってからは、人情も環境もいいので、仕事の能率は上昇気流です」と。
  名張で、興味深い作家展があるのを知り、初めて参加した。松村さんが長い間、精魂込めて作ってきた木工細工を今様に表現すれば、木工パズルに属するだろう。だが、それをあえて“木工作家”を自認するのは、自ら開発した約千点の木工デザインが100%自作のアートといった自負なのだそうである。松村さんが素材にするのは自然乾燥10〜15年の国産「桂(かつら)」材のみを使う。カツラの木はカツラ科の落葉喬木(きょうぼく)で、昔から高級家具や碁盤、将棋盤の素材として人気があり、木造船の材料として尊重された時代もあったという。
  そんなカツラにこだわり続けてきた理由について、松村さんは「耐久性が強く、細かい彫刻には最適の木材。さらには、子供のおもちゃから、床の間に上げられる高価な美術品まで、作りやすい木質が魅力です」と説明する。若いころはなんにでも挑戦したが、むそじ(六十路)ともなれば、欲も枯れる。理想の山里に住居をかえてからは、好きなつみきの面白さに熱中している。野鳥、昆虫、魚類、様々な姿の人形、ペットなど…。適度に乾いたカツラを選んで糸ノコで原型をとり、気長く自作の木工器具で松村さん流儀の作品を作りあげていた。そんな名工を取り囲む見学者らは、巧みな松村さんの手先の鮮やかさに魅せられた様子だった。

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