▼ひと【NO.1】
精神が大切な時代  〜沢田?敏男さん

■文化勲章受賞の元京大総長
 農学者であり工学者でもある沢田敏男さん(88)は、元京都大学総長で、現在は、同大学の名誉教授。専門を、農業水利を目的とするダムや潅漑用水路などの理論的研究や実践とし、その功績で、05年には文化勲章を受章した。
 昨年末は、文化勲章受章を祝し、母校である名張高校内で記念植樹と記念碑の除幕式が行われ、沢田さんは、70年ぶりに同高を訪れた。式典では、記念のシマトネリコの樹を見て、「こんなうれしいことはない。かわいい木ですね。この木が、大きくなるまで生きていられるように努力します」とあいさつ、参列者たちに笑いをふりまいた。その話の歯切れの良さやユーモアには、とても90歳近い年齢とは思えないほどの勢い。
 沢田さんが同校を卒業したのは、1937年。当時、名張高校は、名賀農学校という名称で、農業土木が学べる学校だった。在学中の3年間は、上津村(現在の伊賀市上津)から「毎日、雨の日も雪の日も自転車で通学した」という。沢田さんは、当時を振り返り、「ここで勤労精神の薫陶(くんとう)を受けました」と話す。
 実家は農家。「私の若いころは、今とは違い、自然災害が多くて、雨があったらすぐ農道が寸断されたものだった。それで、僕は本当は村長になるつもりだった」と。しかし、名賀農学校で農業土木を学ぶうちに、「やはり農業は国の要(かなめ)。そして農業をするには水がなければいけない。では、自分は、この分野で役に立ちたい」と思ったことが、ライフワークへの動機となった。
 名賀農学校を卒業後、三重高等農林学校農業土木学科(現在の三重大学)で学んだ。そして、その後、京都帝国大学農学部(京都大学)へ。同大学を卒業した後には、兵役を終え、再び京都帝国大学に戻り、1979年、第20代京大総長に。現在まで、ダム研究の第一人者として、さまざまな賞を受賞してきた。
  「ぼくは作興(さっこう)という言葉が好きなんです」と言い、沢田さんの視点から現代社会について、「科学技術はどんどん進歩していくが、精神的に病んだ事件が多発する社会になってきている。それに対処するには、人間の自己向上心を作興しなくてはいけない。つまり、精神が大事な時代なんです」と語った。  

 


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