▼ひと【NO.3】
工学博士の作陶家 小牧昭夫さん

■「土のめぐみ」を意識
もともとの京都っ子。「仕事の関係で転勤があり、関東方面を転々と回っていました。しかし40歳代の時、たまたま赴任先になった名張に家を買ったんです。そして定年退職して、(家は名張にしかないので)こちらに帰ってきた時、緑に囲まれた名張のみずみずしさがすごく好印象でした。軽井沢にも勝る。でも、よそに行くと、名張といえば「毒ブドウ酒事件」という人が多くて、これではいけないと思いました。難しいことですが、なんとか名張のイメージを上げたいという志でやっています」と話す。
独学で陶芸を始めたのは2000年。02年に自宅に工房「ZERO-T」を設けた。そしてその翌年には、名張市美展で市長賞を受賞。以来、三重のやきもの展、三重県展、朝日陶芸展、京展、神戸ビエンナーレ、抹茶椀コンテスト、現代茶陶展など入選、入賞を重ねてきた。
作陶活動には、工学博士の経歴は十分生かされている。「仕事では、金属や有機物質などを扱っていましたが、物質というものは、どんどん小さくしていくと、みんな同じ。ウイルスみたいな原生動物と同じ格好をしていて、ミミズのようなものが動いているんです。土でも金属でも何でもそう。物を作るにあたって、赤ん坊をあやすように金属をあやす、土をあやす。つまり、素材を慈しむ。それが大事です。素材は、それにこたえてくれますから」と語る。
また、「物質の原点を辿(たど)っていくと、それは宇宙そのものである」という哲学を持つ。今回の個展では、雨・風・火・土・光・陰などの森羅万象を原生的に捕らえ、それを作品に取り込み、一つの宇宙として表現した作品をそろえている。
作陶方法は独特。製作の過程で土の分量を足したり、引いたりすることはなく、あらかじめ出来上がりのイメージにあった大きさの土を用意する。そして、土が自然に乾燥していく過程で、できるひび割れなどを生かしつつ、ひねりあげて成型していく。かなりの力が必要だが、「肩から腕が鍛えられています。定年後の方がたくましくなりました」と笑み。
泥遊びをした子どもの頃から、「土のめぐみ」を意識し続けてきた。土の成分が生命の維持に深くかかわっているようなニュースに触れるにつけ、自分もなんとか土のめぐみを受けたいもんだ?と思い、陶芸を始めた。
「突然始めたので、基礎を持ち合わせていない。当時からやりたいことは決まっていましたが、基本を知っておかないといけないと思って、数年間いろいろな技法で実験的に抹茶椀を作ってみました。実験はおてのものですから」。ギャラリートークでは、これらの抹茶椀で抹茶をふるまう予定もあるという。
「土のめぐみ」を感じ、「宇宙」を意識する中で、「作品に、まるで手が加わっていないような自然が存在しているかどうか--というところを見てもらいたい」。

   
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