▼ひと【NO.6】
アユ釣り名人 奥田寅一さん

■名張の鵜と呼ばれ・・・
アユ釣りの季節。名張川をホームグランドに「名張の鵜(う)」とも呼ばれるアユ釣り名人は、奥田寅一さん(栄町)。日刊スポーツ、釣り速報、スポニチなど、釣り専門の新聞社からの取材を受けることもしばしば。
 奥田さんは布生出身で、アユ釣りを始めたのは約50年前。「子どもの時から、教科書は持たなくても、釣り竿(さお)は忘れずに持って学校に行きましたね。そして、3時になると裏の川に行って、たまたま釣っているおじさんたちに魚を分けてもらって、アユ釣りをしたんです。もう興味津々でした」という。釣れた時の感触が他の魚とは違い、アユは強烈。特別楽しく、中学生の頃にはもう、その魅力のとりこになった。
 自分の道具類は使い勝手が良いように工夫、加工して使用している。仕掛けも独自に考える。すべて我流だが、研究を重ねた結果「名張の鵜」と呼ばれるほどになった。以前、取材を受けたという大阪の新聞には、2ページぶち抜きで特集が組まれ、奥田さんのコツが細かく記されている。
 「何十年と親しんでいる川だから知り尽くしている」という長瀬地区には、期間中ほぼ毎日足を運ぶ。そのせいで、奥田さんの手には常に「竿ダコ」が。「このタコは削るんやけど、1週間ですぐにまたできる。毎日、朝から晩までやってるから、しゃないわな」。また、長瀬太郎生川に、ポイントを7つもっているという奥田さんには、「今日はどこで釣った?」という仲間からの問い合わせがあるという。「釣り残しがないから。私の入った所に、次の日に入ったら全くアユがいないと言われて(笑)。それで、みんな今日はどこ入った?って聞いてくるんですわ」。
 自分の腕前について、「プロには、かなわないけど…」と謙遜(けんそん)しつつも、「毎日40匹前後、年間にすると1400から1500匹ほどは釣りますね。おとりの交換は10秒でできます。すると、そのおとりは元気やからよく釣れるんです。神業といわれました」と、自信に満ちている。釣り上げたアユは、料理店などが買いに来ることもあるが、基本的には自宅用で、お中元などのあいさつや、お礼に使うことが多い。そのため、自宅の冷凍庫はアユでいっぱい。通常の冷蔵庫1つでは入り切らないため、アユ専用の冷凍庫も買い足した。食べ方は、「やはりアユは塩焼きが一番やけど、冬は甘露煮。番茶で炊くのがいい。また、アユごはんもおいしいですよ」と奥様。
 奥田さんは、「まだ65歳ですが、先日、ひ孫にも恵まれました。仕事を退職してから、本当に毎日が充実していて楽しい。幸せやな」というが、一昨年には肺ガンを患い、川からも遠のいていた。現在も通院はしているが、元気。再び川に戻った時、「みんなが『鵜が病気したのに、また戻って来たわ』ってそう言ってくれました」とその時の喜びを話す。奥様は、「元気で、朝から出掛けてくれるのが何より(笑)」と。
まだまだアユ釣りの季節は続くという奥田さんは、「岩はすべりやすいので足元に気をつけることや、増水など、くれぐれも安全に気をつけることが大切」と「名張の鵜」ならではの言葉が返ってきた。

     
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