▼ひと【NO.10】
ばりっ子すくすく計画で講演  浜田進士さん

■子どもにも一人の人格
先月23日、名張市の武道交流館いきいきで「ばりっ子すくすく計画」推進協議会があった。弁士に立ったのは、関西学院大学の浜田進士さん。その講演は、軽妙な語り口と、参加者を引き込むワークショップで、楽しくてわかりやすいと評判が高かった。同計画の策定にあたり、名張市でも多くの講演を行ってきた浜田さんは、子ども支援学や教育社会学、社会福祉学を専攻し、子どもの権利学習、人権教育、子どもの権利に基づく都市政策などを研究する准教授。そんな浜田さんの人物像に追った。
出身は、名張市葛尾。母親は1961年の名張毒ブドウ酒事件の現場で毒ブドウ酒を飲んだ被害者の1人だった。「その時、すでに私は母のお腹の中にいたんです。幸い、なぜか母は軽症ですんだのですが、お腹の中の子のことを考えたら中絶も考えたと聞かされてきました」と話す。
事件の3か月後、無事産まれた浜田さんだが、子どもの頃は、周囲の人たちから、「ブドウ酒さん」と呼ばれた。浜田さんは、「ひどいあだ名だと思いませんか?でも、産んでくれてよかった。生きているだけで丸もうけ。生きているってありがたいなと思うようになりました」と当時を振り返る。そこから、「少しでも人の役に立つ生き方をしたい」と思った。
大学時代に行ったパキスタンが初めて経験した外国。その後、開発途上国に興味を持ち、日本ユニセフ協会のボランティアとして海外の子ども支援活動を。その中で、「路上生活をしている子の、他者を受け入れようとする力、つながろうとする力、はい上がる力をすごいなあ」と実感。
子どもには力がある。これを浜田さんは、「チカラ」と表現する。このチカラを発揮させるには、3つの条件が必要という。1つ目は、気持ちを聞いてくれる「意味ある他者」との出会い。2つ目は、いろんな物差しのある居場所。例えば、いつもがんばっているから、「ここではがんばらなくてもいいよ」と言ってもらえる場所。3つ目は、子どもの権利を支援するシステム。
「例外なく世界中のすべての子どもが、安心して生活できなくてはダメだ」が持論だ。そのためには、子どもを支える仕組みが必要で、基になるのが「子どもの権利条約」と考える。名張市でも、これを広げていこう」と条例が作られた。
では、権利とは何か、浜田さんは、「あたりまえのことだ」という。あたりとは正しいという意味。まえとは分かち合うという意味。「正しいことを分かち合うことが権利です。そして、あたりまえでないことが行われていたら、誰かが声をあげる。それを他の誰かが受け止める。そして、それを共通の願いとして話し合いが行われ、決まり(法律)ができていくんです」。
子どもの権利条約が定めている権利は、「生きる」「育まれる」「守られる」「参加する」の4つ。「これらは1つでも欠けるとダメで、4つそろわないと意味がないものです」。
子どもが最も願っているものを、周りの大人たちが間違うこともある。過保護、過干渉、放任、無視、虐待など、大人は子どもの保護と自立を統合的に理解する必要があり、その加減と`あんばいaはむずかしい。
「零歳から18歳までの世界中の子どもの権利を守るため、国連では1978年から1989年までという長い年月を費やして、いろいろな国のみんなで考えたんです。子どもが必要としているものは、その子に聞いてみないとわからない。ちゃんと聞いて、みんなで考えることが大前提。これはもちろん、子どもの言いなりということではなく、子どもの意見も尊重しながら話し合うということが必要。子どもは大人に保護、管理されるものではなく、1人の人格であって、社会に積極的にかかわっていく存在なんです」。
現在は、子ども権利条約総合研究所、開発教育協会などに所属し活躍中だ。
「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は、世界の18歳未満のすべての児童が等しく持っている人権の尊重と保護の促進を目指した国際条約で、平成元年に国連総会で採択された。日本は、平成6年に批准し、名張市でも平成18年に、「子どもの権利の保障と救済」と「子どもの権利を基本とした子どもの健全育成」を柱とした「子ども条例」が制定された。そして、これを基に、平成21年、市や地域、家庭、学校、企業などが具体的にどのように行動するかをまとめた、子どもの健全育成に関する基本計画「ばりっ子すくすく計画」が策定された。

      
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