▼ひと【NO.7】
三重県文化賞「文化功労賞」受賞 角谷英明さん

■伝統工芸の発展に貢献
「東海、とりわけ三重県の伝統工芸を発展させるに欠くべからず人物」として推薦され、第12回三重県文化賞「文化功労賞」を受賞したのは名張市黒田在住の陶芸家、角谷英明さん(67)。文化功労賞は、20年以上にわたり文化振興に貢献し、その活動と功績が優れた個人・団体に授与される賞。
角谷さんは、茶の湯釜師で重要無形文化財保持者。故・角谷一圭氏の三男として大阪府に生まれた。京都市立芸術大学専攻科を修了した後、九州産業大学で助手をしているとき、伊万里焼で青白磁と出会った。「それが自分の感性にあっていたし、すいこまれそうな美しさに、自分も作ってみたいと思って始めた。そして、気が付けば10年、20年、30年…という感じ」と振り返る。
名張へ転居は31年前。候補地は他にもあったが、自然、交通の便、生活環境など総合評価で名張を選んだ。とりわけ、自然が豊かな環境が気に入った。「ホタルブクロなんかかわいいでしょう。名張に来て初めて見ました。アザミ、スミレなど、みずみずしい可憐な花が気持ちに合う」と。作品には、散歩しながら見つけたという野の花をモチーフにしたものが多く、その透明感、清涼感のある青白磁の大皿にはファンも多い。
作陶は産みの苦しみだ。「作っているときは、しんどいことばかりですが、評価されることでやっと報われたという思いになる」といい、今回の受賞も、「なんというか…やっとです」と喜びを口にする。
苦しみが多い一方、達成感は強い。技術上で出来た壁を乗り越えられたときや、デザイン、構成で袋小路を抜けられたとき、それぞれが得られる。しかし、出来上がった作品をいつまでも愛(め)でるタイプではない。焼き上がったうれしさと、作る過程のうれしさを比べると、作る過程のうれしさの方が大きい。「出来た作品はお客さんが手にして、独り歩きするものだから、いつまでも抱いているのではなくて、作品は置いて、作者は後ろに隠れるべき」と思っている。
また、職人の家に生まれた角谷さんは「工芸品は使われてこそ価値がある」と。作者が鑑賞するのは自己満足。他人の手に渡って眺めて初めて意味があると考え「生業(なりわい)とは、生計をたてるための職業ですから。それに、出来上がった作品への思いよりも、次の作品の構想が大事」とモットーを語る。
最近は大きい作品が多く、こまごましたものはあまり作っていないそうだが、全国各地の展覧会には欠かせない存在。先日、帝国ホテルのギャラリーで展覧会を終えたばかりだが、7月24日は岐阜高島屋、8月7日米子高島屋と息つく暇もない。「どこから来た話もありがたいと思って(展覧会の)話も断りません。年齢を克服しないといけないし、その時期の全パワーを傾けないといけないとも思っている」と精力的だ。
名張では、文化協会の副会長を20年以上努める。
現在、月1回、国津の杜はぐくみ工房あららぎで、一般の人向けの指導にあたる。これは、「伊賀焼とは一味違った陶芸があるということを知ってもらいたい」という角谷さんの思いと同工房の思いが一致したため、実現したイベント。
この教室には、普段使っているものと同じ土を用意する。この準備に2日、仕上げ1週間。その後、出来た作品を包んで…と全部工程には10日程度拘束される。かなりの負担だが、「素人さんとのふれあいは楽しい。教室では、みんなにこにこしてしゃべりながら、笑いながら、喜々としてやってくれる。これがうれしい。白磁の良さも自分たちが作った作品を通じて知ってもらえてるんじゃないかな」と笑顔。
今後は、「年齢を重ねてきて、野心をもって力にまかせた作品ではなく、自分の世界を打ち立てて、もっと突き詰めていきたい」と話した。

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