▼ひと【NO.6】
独自の泥乾法で美を追求 小牧昭夫さん

■本場で異色の個展
名張市桔梗が丘5番町の陶芸家、小牧昭夫さん(77)が5月20日から28日まで伊賀市上野福居町の「アートスペースいが」で個展を開催している。城下町のモダンなギャラリーに独自の手法による作品約100点が展示され、異色の作風が入場者を楽しませている。
小牧さんはシュルレアリスム(超現実主義)を追求した洋画家、小牧源太郎さん(明治39年-平成元年)の長男として京都市に生まれた。京都工芸繊維大学で窯業工学を学び、民間企業で電気化学の研究開発に携わったが、会社員時代から陶芸に興味をおぼえ、平成12年の定年退職と同時に自宅に工房を開設して作陶を始めた。「遅いスタートでしたから、じっくり常道を行くような余裕はありません。あえて破天荒な道を選びました」。
たどりついたのが「泥乾法」と名づけた技法だった。どろどろの土を成形して仕上げる「泥」の世界と、土のかたまりを乾燥させ、くり抜いた内部から手で外側へ叩き出すことで表面にひびを入れる「乾」のふたつの世界を行き来して、自分だけの表現を見出した。ひびには釉薬で彩色と補強をほどこし、個性的な模様と従来の陶器を上回る強度を実現している。
3年間、試行錯誤をつづけて技術を磨いたあと、公募展への出品を始めた。名張市美術展では2度、市長賞を獲得したが、「審査員の角谷英明先生から『面白い』と強く推していただいたことが大きな励みになりました」といい、全国規模の公募展でも入賞、入選を重ねてきた。一昨年から今年にかけては京展で楠部賞、三重のやきもの展で知事賞を獲得、現代茶陶展と大阪工芸会展で入選を果たしている。
伊賀市では初の個展だが、「伊賀市で先端的な美術に取り組む先生がたから個展を開くように勧められました。伊賀焼の本場ですが、異質な作風も迎え入れてくれる土地柄だとわかりました」。展示作品は食器、花器、茶器のほか、独自のフォルムを見せるオブジェが目を引くが、どんなオブジェにも実用性をもたせているという。「実用性と美の両立を目指しています」 陶芸家として17年間、手さぐりで独創的な世界を開いてきたが、いまだに「開発途上です」といい、科学の実験のように釉薬や焼成法などのさまざまな可能性を追求している。名張市民になって約30年。「京都や大阪、名古屋に近く、それぞれのいいところを吸収できる立地。文化的に高い可能性を秘めた土地だと思います」と名張の可能性にも期待を寄せている。午前11時から午後6時(最終日は5時)まで。

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