▼ひと【NO.2】
自然体で社会貢献 辻本全教さん

■消防長 おつかれさま
名張市消防本部消防長の辻本全教さんは今年60歳の年男。「3月に無事定年退職を迎えます」と笑顔。
自身の消防人生を振り返って一番記憶に残っているのは、平成7年1月17日、阪神淡路大震災で出動したこと。現在は緊急消防援助隊というシステムがあるが、当時はそんな制度のない時代だった。震災後の応援出動要請に伊賀南部消防組合(当時)もすぐに手を挙げた。消火隊としてポンプ車で出動したが、道路が寸断され、渋滞で到着に6、7時間かかった。現地では、亡くなっていたが、建物の下敷きになったおばあさんを見つけた。「あの時のことは忘れられません。そう思うと、名張は幸い大きな災害が少ないところ。ありがたいです」。
昨年10月22、23日、それまで降り続いていた長雨と台風21号の襲来が相まって宇陀川が氾濫、避難勧告が発令された。名張市での避難勧告発令は初めてのことだった。各地で土砂崩れや浸水などの被害が出たが、地域の消防団の協力もあり、大きな混乱は起きなかった。消防職員は絶えずどんな状態でも通常の業務である火事・救急・救命が使命だ。もう一方で河川対策などの仕事があり、人手が足りない。「献身的に活動している名張消防団には大変感謝している。何かあったとき、本当に頼もしいです」と実感がこもる。
大学卒業後、消防一筋に勤めてきたが、4月から第2の人生が始まる。家族に目を向けると、今年で結婚30年。今までは、自分の考えた通りに生きてきた。「妻は迷惑やわと言うけど、これからは妻の思いもちゃんと聞いて、いろんなことを一緒にして、共有できる時間を増やしたい」とも。同居の父が91歳、母は80歳になり、体力が落ちて、介護が必要な状態になった。「産み育て、今まで見守ってきてくれたことを感謝して、心を込めてお世話をしたい」。
近年、その両親がやってきた畑仕事が辻本さんにバトンタッチされ、一番楽しい趣味は野菜づくりになった。「初心者なので、失敗を重ねながらやっていますが、実がなるとか収穫するということよりも、種を撒いて、芽が出たときのうれしさが一番」という。植物が順調に育っていくプロセスを見守ることは、「本当に癒されます」。
釣りも趣味、料理もできる。自分が釣った魚は、お造りや干物、くん製にする。くん製は、火加減が難しいが金属缶さえあれば簡単。「食べることは結構一生懸命するんですよ。釣ってきたアマゴのくん製は美味い。こだわりがあって、醤油を買いに和歌山まで行くこともあります」と、趣味の話は、話し出すと止まらない。
今年の抱負は働いた後、おいしいお酒が飲めるように、後10年を目標に現役でバリバリ働くこと。将来的には「かけがえのない残りの時間は力まず自然体で、自分の置かれた立場をしっかり理解し、家庭でも、仕事場でも、地域の中でも精一杯努力をし続けたい。そして、自分の存在が周りを明るくし、なくてはならない人として最後まで全うしたいです」。

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