▼ひと【NO.8】
久寿徳14代目 松田光司さん

■酒の魅力伝えたい
名張商工会議所創立60周年記念式典が10月17日、産業振興センターアスピアで行われ、創業100年を超える地元長寿企業45社が表彰された。その中でも創業延宝3年(1675年)と、最も古い久寿徳(くずとく)松田商店(鴻之台)の14代目・松田光司さん(50)に創業343年の重みを伺った。
--創業が最も古い企業に選ばれた感想と屋号のいわれを。
お酒を造る前は奈良の吉野葛を仕入れて売っていた。それを含めて343年です。屋号である久寿徳は、初代松田徳兵衛の葛販売の歴史から当て、久寿とした。徳は代々続いた名前「徳兵衛」からもらった。
--葛販売から酒造りを経て、酒販売へ移行するきっかけは。
どこの蔵元や酒屋も、庄屋、両替商など、いろんなことを昔はしてきている。中でも先代は、伊賀の米・水・寒暖の差という地域の資源が、お酒造りに向いていると考え、酒造りを始めたのだと思う。酒販売へ移行したのも、造るより売る専門にした方がいいと思ったのでしょう。
--そのときの当主の判断ですね。
おばあちゃんの代までは、製造免許があった。酒は大正時代まではまだつくっていたが、いまは製造免許はない。伊賀の大田酒造で造ってもらっている。
--いつごろまで自社で醸造していたのですか。
代々同じ名前を引き継ぎ、10代目松田徳兵衛まで酒造りは続いた。平尾のお春日さんに行ったら、ひいおじいちゃん(松田熊次郎)の名があり、それまで酒は造っていた。当時、旧町で9件あった造り酒屋も、いまでは1件に。現在の名張市では4件にまで減った。いまも続く名張の蔵元さんは凄いと思う。うちはその時に応じて、商売を変えている。10代目松田徳兵衛が酒造りをやめた後、26年前に鴻之台に移転しました。
--昔から受け継がれているものはありますか。
古いといっても、代々伝わる書物とかはない。酒造りもやめたんで、その道具もなかった。
--おばあちゃんが使っていた物とかは。
貯金箱のような銭箱がある。売る場所と家の間でこれを持ち歩きしていましたが、釘がなく、木だけで作られている。明治何年もので百年以上、最低でも三世代では使っている。途中、木の釘で補強しているが、毎日適当に使っても壊れない。
--ほかにありますか。
お酒造りをやめてから、量り売りしていたとき使った壺がある。「名張松田酒店 松乃露」と書いてある「通いとっくり」で、お客様が空っぽのを持ってきた。今は容器を持参して量り売りの時代に戻ろうとしているので新鮮にみえる。そういえば金の指輪で松田熊次郎って書いた指輪があった。昔は酒屋は資産があったので、知人らは「お金貸して」や「保証人になって」と来るわけです。指輪がハンコ替わりでした。
--古い物はほとんど残っていないのですね。
米中とかいう画家さんが家に泊まっていたらしく、その人は絵ばかり描いていて、それを襖(ふすま)にしたのはある。「価値的にはないけれど大事にしてください」といわれたものだ。名張で昔から商売やっているところにはちょこちょこあるらしい。
--日本画家の堀西米中さんのことですね。事業の継承については。
息子はいま19歳ですが、継げともいいません。好きなようにしたらいいと。
--ソムリエ資格を持っていると聞きますが。
22歳から30年くらいの間、お酒の業界にいましたが、大学出てから、より詳しく提案できるようにと、大阪でソムリエの勉強をし、25〜26歳にソムリエになった。
--久寿徳松田商店といえば注文後に目の前でびん詰し、オリジナルラベルを作成するという販売スタイルで、ほかとは違う印象ですが。
平成9年にタンクを造った。当初はおやじと一緒にやっていたが、ある日「おれもう辞めるから」というから代替えした。鴻之台に移転してからタンクにした。おいしいお酒を届けたいという思いで設置した。
--びん詰販売は、ほかにもありますか。
名張・伊賀ではこういった販売スタイルはない。京都の錦市場にある酒屋に小さい20リッターくらいのタンクで商売しているところはある。機材の大小はあれど、全国的には少ない。そこへ行くとやっぱり一回飲んでみようかなと思う。同業者だが、全然知らないところで買うことはある。
--生酒のほかにも焼酎の甕(かめ)がありますね。
焼酎は九州から送ってもらって熟成している。
素焼きの甕で、そのままだと水を通す。中を何千度という火であぶるとガラス状になる。そうすると細かい穴があく。空気は通すが液体は通さない。じわじわと空気に触れさせて中の焼酎をまろやかにさせている。原酒の状態でアルコール度数を落としたものを買っている。
--酒販売を続けるに当たってひとこと。
僕は販売店なので、お客様に気持ちよく買い物していただけるのが一番。自分の代はずっと続けていきたい。いま、若い女性の間でも日本酒が人気なので、そういった方がもっと増えればいいなと思う。伊賀も含め多くの銘柄がある。みんなおいしいので、たくさん飲んでほしい。販売店として、一つひとつの銘柄の良さをこれからも伝えていきたい。

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